後始末


荒廃した大地である魔界にも都は存在する。

そこには魔族やモンスターが共存して暮らしており、ある程度の秩序が保たれている。

しかしそれはないよりはマシといった程度のものでしかなく、路地裏での陵辱や商売敵への殴りこみは日常茶飯事である。

警察に相当する治安組織もない事はないが、それは魔都を支配する上位魔族の権力を脅かす者にしか動く事はない。

よって魔都は荒野よりは安全とはいえ、決して安心できる場所ではないのだ。


その魔都のカフェに、魔界ジュースを飲んでくつろぐ3人の少女の姿があった。

波がかった長い黒髪にリボンをつけた、下着姿の13歳ごろの少女、ゾフィ=ロッツ。

体が半ば隠れるほど長い黒髪を伸ばした、蒼いドレスを纏った18歳ごろの儚げな美少女、レイン=マグナス。

最後の一人は褐色の肌にひときわ長い耳を持ち、ややタレ気味な瞳を持つ15歳ほどの少女、フェリュー。


「ゾフィ、あなたに仕事を依頼したって依頼人が、あなたのことを探しているみたいよ。

 あなた、また何かしでかしたでしょ」


フェリューが瞳を半ば閉じてゾフィをじっと見つめる。

フェリューはゾフィの旧知の仲で数少ない友人の一人だった。

単独行動を好む魔族でもそういう間柄の関係はあるのだ。


「あぁ、そうなの?まぁ当然といえば当然よね。で、アイツは今何処にいるの?」

「自分の店に篭ってるわよ。オークとかを使って色々探してるみたい」

「どうか…されたのですか…?」


一人話題についていけないレインが二人に問いかける。

実はゾフィはソウルイーターという奴隷商人から依頼を受けて、オーク達に誘拐された商品…レインの奪還を依頼されたのだが、

傾国の美貌と抜群のスタイル、ふたなり、そして高い癒しの能力を持つレインを気に入り、奪還するどころか横取りしたのである。

レインは今、魔奴隷兼魔界メイドとしてゾフィに仕えている。

魔族の奴隷となった下級魔族の一部は、主人の完全な所有物となり、

もはや他の魔族やモンスターが奴隷として横取りする事もできない、という魔界のルールがある。

それをゾフィは行ったため、レインはもはや奴隷としての商品価値を失ってしまったのだ。

ソウルイーターが激怒し、ゾフィに追っ手を差し向けるのは当然といえる。


「またオーク?せっかくあのブタの匂いが取れかけてたっていうのに」


よく事情がわからないレインも、自分と主人をオーク達が探している事は理解できた。

森で陵辱された記憶が蘇り、かすかに体を震わせながら、ゾフィのすけ通ったランジェリーのすそをきゅっと握り、隠れるように寄り添う。


「大丈夫よレイン。貴女は私の玩具なんだから。私の玩具は私だけの玩具。誰にも渡したりなんかしないわ」


寄り添ってくるレインの頭をよしよしとゾフィがなでる。

レインは少し落ち着いたのか、頬を染めされるがままになっている。

その様子を見て、フェリューがにやにやと笑いながらゾフィをからかう。


「何?そのコに惚れたから、駆け落ちでもするの?」

「え、ほ、惚れる…?」

「ば、馬鹿な事言わないで!誰が玩具に惚れるとかどうとかするのよ!私と恋人になりたいならこの魔界全土を持ってきなさい!」


レインの顔がぽーっと赤くなり、頬を染めて反論をするゾフィの顔を見つめる。


「はいはい。あ、それとオークの他にも堕天使も動いてるみたい。名前はフロシエルだったかしら?」

「フロシエル?あぁ、あのソウルイーターの子飼いの奴隷ね。テンプレート過ぎて印象が残らないわね」


ヒュリューのあしらいがちょっと気に障ったが、追加の情報が入った事でそれは不問にする事にした。

フロシエルは最近堕落したばかりの天使で、おどおどした性格でソウルイーターのいいストレス解消奴隷となっているらしい。

ソウルイーターには性欲は全くなく、ソウル…金銭にしか興味がないが、それでも気分というものがあり、それによって奴隷を虐待するのもよくある事だ。


「結構彼女、やる気らしいわよ?よく聞き込みをしてるのを私もみた事があるし」

「聞き込み? あははははは!聞き込みやってるくらいでやる気って言われてもねぇ♪」

「えっとね、なんていうか、私が見た感じだと、なんだか必死って感じだったわ。後がない、みたいな」

「ふぅん?なるほどねぇ…。ふふ、いい事思いついちゃった♪」


舌を出してぺろりとし楽しそうに微笑むと、ゾフィのお尻から生えている肉蛇が鎌首をもたげる。


「ま、悪巧みするのは勝手だけど……火傷には気をつけなさいよー? あ、そろそろ私いくから」

「ゲームはスリルがあるから楽しいんじゃない♪ はいはい、まったねー」


立ち去るヒュリューの背中に軽く手を振ると、ゾフィは紙を取り出しさらさらさらっと何かを書き記した。


「レイン、これをフロシエルって堕天使に渡して頂戴。私は他に行く所が出来たから」

「ぇ…っ で、でも、私は…」


単独行動をしろと言われてレインの表情に怯えが浮かんでくる。


「大丈夫よ、言ったでしょ?レインは私の玩具。つまり私の所有物。誰かに奴隷にされるなんて事はもうないわ。それに…」


ゾフィは懐から細く長い透き通ったクリスタルを取り出した。ゾフィがすっと手をかざすと、豪奢な部屋が浮かび上がる。

これは”闇の牢獄”というアイテムで、宝石は限定的な異次元空間に繋がっており、奴隷にした魔族やモンスターを保管できるというものである。


「貴女が念じればここにいつでも戻ってこれるわ。だから、安心なさい?」


戻ってこれるのは魔人未満の下級魔族に限るのだが、その下級魔族であるレインにはなんら問題はない。

それを聞くと、レインは目を瞑り、瞑想を始める。すると、シュン…と姿が消え、次の瞬間、闇の牢獄の風景の中にレインが現れる。

ゾフィはにんまりと微笑むと、闇の牢獄に手を触れて同じように念じる。すると、再びレインの姿が消え、今度は外の世界にレインが現れる。


「こんな感じにね♪ どう、安心した?」

「は、はい…」


レインは胸に手を当てて小さく微笑む。

ゾフィはその微笑みについ見惚れてしまうが、すぐに我に帰った。


「そ、それじゃ、頼んだわよ?」

「はい、ゾフィ様」


安堵の顔を浮かべながらレインは街頭へと消えていく。

魔界で堕天使は目立つ、それが聞き込みをしているならなおさらだろう。

レインのほうはこれでよし。あとは…。


「手ごまを集めなくっちゃね。

 さぁ、ゲームの始まりよ♪」


ソフィは楽しそうに呟くと、闇の牢獄をしまい込み、レインとは逆方向へと歩き出した。



レインはすぐにフロシエルを見つけ出す事ができた。

蒼いロングヘアに丸みを帯びた瞳を持つ15歳ほどの少女だ。

聞いたとおり、傍目からでもかなり必死になっている事がよくわかる。

それほど堕天使の顔に余裕はなかったのだ。

そしてフロシエルは奇妙な鎧を身に付けていた。

その鎧は肩と手足のみを覆う、鎧としての効果があるのかどうか疑わしいものだった。

胸や秘所は丸見えで、からだのあちこちに精液がかかっている。


「すみません、ゾフィ=ロッツという魔族を探しているのですが、知りませんか!?

 お願いします、どんな情報でもいいんです!お願いします!」


フロシエルはすがる様に通りがかる魔族に似顔絵を見せて情報を集めようとしているが、通りかがる者全てが煩わしそうに彼女を避ける。

ときおり足を止める者もいるが、その魔族は情報と引き換えとしてペニスを奉仕させ、満足するとそのまま何も言わず去ってった。


「げほっ ふぅっ はぁ… どうして、皆話を聞いてくれないの… 早く見つけださないと…」


喉に入り込んだ精液に咽ながら、フロシエルは布で口元を拭いはじめる。


「あの…」

「はやく、はやく…って、  えっ?」


話しかけたのは勿論レインだ。それに大してフロシエルは素っ頓狂な声をあげる。

どうやら話しかけられたのは初めてのようだ。


「人を探しているんですよね…?」

「し、知ってるの!?」

レインにぐばっと迫るように駆け寄り、その手をぎゅっと握りこむ。


「は、はい…その方から、メッセージを貴女に届けるように…と」

「相手みずから!?メッセージ!??あれ、それに貴女、何処かで…あっ!」


フロシエルは目の前の美少女が、ゾフィに横取りされたソウルイーターの商品だとようやく気づいた。

その商品が目の前にいて、探している魔族からのメッセージを持っている。

虚偽かとも思ったが、レインがここにいるという事実がフロシエルにそれが真実だと教えていた。

レインは懐から手紙を取り出すと、フロシエルにそれを手渡す。

メッセージには、何処かの地図と共に、こう書かれていた。


『やっほー、私を探しているんですってね?私も面倒くさいのは嫌なのよね。

 だから、ここは一騎打ちで勝負しない?場所はトリストラル遺跡。

 あ、この事をソウルイーターに言ったら、私はここから永遠に離れさせてもらうから。

 誇り高い天使の一族なら、そんな事をせずに、この申し出を受けてくれると思っているわ♪』

 それじゃ遺跡で会いましょう♪もちろん、一人で来る事。いいわね?チャオ♪ byゾフィ=ロッツ』


非常に身勝手なメッセージである。

しかしこれを受けざるを得ない事情がフロシエルにはあった。

まずは目的の魔族に直に挑発され、これを密告するという事にプライドが許さない。

過去は魔族討伐を任務としていた攻勢の天使であり、戦闘には自身がある。

そして密告すれば逃げるとある事。目の前の美少女は恐らくゾフィの魔界メイド。

ここで捕らえても闇の牢獄に逃げるのを防ぐ術はない。

これまで全く情報をつかめなかった魔族を、さらに行方が掴めなくなる事は何としても避けたい。

最後に、自らの体はソウルイーターの手によって、とある毒を盛られている事。

ゾフィを捕らえる事が解毒剤を手に入れるチャンスだとソウルイーターから告げられているのだ。

メッセージにある地図はその遺跡のものだろう。覚悟して乗り込むしかない。


「遺跡までは私が同行します…」

「あ、う、うん」


さらに見張りまでついてしまった。これでは自分で傭兵を雇う事も出来ない。

絶望的な空気がフロシエルを包み込む。

しかし行くしかない。

フロシエルはレインを引き連れて、遺跡へと向かっていった。



トリストラル遺跡。

かつては魔王の別荘だった場所だが、今は盗掘されきっており、トラップも全て解除されている。

いわゆる枯れた遺跡だった。

その入り口で、ゾフィとフロシエルは対面した。


「貴女がフロシエルっていう、私を捕まえようとやっきになってる可愛い天使ちゃんね?」

「そ、そうよ。ゾフィ=ロッツ。契約を破った無法の魔族め!覚悟しろ!」


フロシエルはそう言い放つと、腰に下げた剣を抜き放ち、盾を構える。


「まぁ待ちなさい。私は戦う為に貴女をここに呼び出したわけじゃないわ」

「な、何…っ!?しかし、あの果たし状は…!」

「だって、普通に話し合いましょう、だと、貴女一人でここに来る事ないでしょう?」


果たし状が嘘だったという事に、フロシエルの頭に血が上っていく。


「ふざけるな!ここでお前を捕らえて、主人の下へ連れて行くのが私の使命!」

「使命、じゃなくて、脅されてるだけでしょう?」

「っ な、何…っ!?」


今にも襲い掛かろうとしていた堕天使の体が動きを止める。


「だって、貴女まだ堕ちたばかりの天使なんでしょう?

 それが下等なソウルイーターの奴隷なんてプライドが許さないでしょう?」

「そ、それは…っ」

「貴女、自由が欲しくない?」


ゾフィが眼を細めてにたりと微笑む。

自由、という言葉にフロシエルは動揺した。

実際に天使である自分がモンスターの奴隷をしている事は認めたくない事実であり、自由を求めているのもまた事実だ。


「…欲しくないといえば嘘になる。でも、今はそれ所じゃないんだ!」

「だから、脅されているのよね?その解決法を私は知ってるし、やりとげる事もできる」

「!?」


脅されている、どうしてそれを?


「別に心の中を読んだわけじゃないわよ?

 貴女みたいなプライドの高い天使が必死になって下種なモンスターの命令を果たそうとしている。

 …とくれば、脅迫を受けていると考えるのが自然。そうじゃない?

 それを排除するには、ソウルイーターを倒せばいい。実に簡単な話よ。」

「そ、それは…で、でも…それは、私一人じゃ…っ」


心の中を全て見透かされていると知って、フロシエルは戦意を喪失していく。


「だ・か・ら… 私と組まない?」

「組む…っ!?」

「そう。私にとってもあのソウルイーターは邪魔なのよねぇ。だから、ここで消しておきたいわけ。

 貴女は何かで脅されている。ソウルイーターを倒せば、それが解決するだけでなく、自由も手に入る。

 どう?悪い取引じゃないと思うけど」

「うぅ…、で、でも、私は契約が…っ」

「契約って?」


フロシエルは、顔を真っ赤に染めながら、俯きがちに答え始める。


「解毒剤…私の体は、毒に蝕まれているんだ、お前を捕らえる事で解毒剤を私に渡す、そういう契約だ…」

「毒?」

「… 強制、妊娠薬だ…っ 」


強制妊娠薬。
魔薬の一種で、これを飲んだ者は子宮や膣内に精液を注がれると強制的に妊娠してしまうという毒物である。


「ぷっ…あはははははは!!貴女ばっかじゃなぁい?」

「な、なんだとっ!?」

「考えてもごらんなさいよ。どうしてそんなものをソウルイーターが貴女に飲ませたの?

 それに貴女のその鎧、どう見ても戦闘用じゃない、カースドアイテムの淫魔の鎧よねぇ?


淫魔の鎧。

鎧が発する防御結界により高い防御能力を持ち、身に付けた者の魔力を高めるが、

快楽に抵抗し辛くなり、さらに常時発情してしまうという呪われた防具である。

おそらく戦闘になっても発情でそれどころではないだろう。


「貴女、ソウルーターの子飼いを生む機械として奴隷にされたんじゃない?

 魔族の子供は生まれた瞬間に成長する事はあなたも知っているでしょう?

 オークにでも犯させれば配下でも商品でも使える奴隷候補が簡単に手に入るんだから、楽なものよねぇ♪」

「そ、それは…っ」

「それに、そんなソウルイーターが素直に解毒剤を渡すと思う?

 私ならそんな事はせずに、ずーっと目の前に解毒剤というニンジンをぶらさげたまま子飼いにするわよ。

 わかる?私を捕らえたとしても、解毒剤が手に入る事なんてない事が」

「…く、うぅ…っ」


フロシエルは明らかに動揺し、戦意を失いかけている。

あと一押し。ゾフィは心の中でほくそえんだ。


「だから… ソウルイーターを倒す事は、私にとっても貴女にとっても得のある話なのよ。

 それとも、あくまであのソウル狂いのタコ頭を信用して私と戦う?」

パチン、と指を鳴らすと、闇の牢獄が輝き、周囲に次々とモンスターを実体化させていく。


「な、何…っ!?」


一瞬の間に、フロシエルの周囲には、デストリア二体とオーク3匹の姿があった。

そしてそのオーク達の姿にフロシエルは見覚えがあった。


「こ、これは…っ!?一騎打ちじゃなかったの!?それにお前たちはっ!!」

「オレタチ、ソウルイーターカラ、ゾフィサマニ、ノリカエタ」

「ソウルイーターコロス、ソウルイーターノドレイ、オレタチノモノ」

「ゲヒヘヘヘ」


オーク達が下卑な笑いを零す。

よく見ればオークの体のあちこちに鞭の跡がある。

どうやらゾフィに調教され奴隷となっているようだ。


「貴女は本当に馬鹿ねぇ。私たちは魔族。

 約束なんてこっちの力が強ければいくら反故にしても許される。そういうものなのよ。

 それに、最初に言ったでしょう?貴女とは”話し合う”ためにここに呼んだ、って。

 この意味わかる?」


完全にハメられた。そう悟ったときにはもう遅すぎる。

これが魔族というものなのか、これが魔界の法というものなのか。

剣と盾がガランッと地面に音を立てて落ち、フロシエルの瞳に涙が浮かぶ。


「話聞いてる?頭の悪い子は嫌いよ」

「もう、どうにでもするがいい…」


声が震え、完全に俯いてその場にへたりこんでしまった。


「まったく、これだから天使ってのは…何回もいうけど、私は貴女と手を組むためにここにいるのよ。

 もちろん、最初に言ったとおり、上手くいけば自由にしてあげる。

 もっとも、今ソウルイーターの奴隷である貴女には、今ここで私の奴隷になってもらうけど。

 奴隷は主人に対して物理的な攻撃を加える事ができない、これが魔界の不文律だからね?」

「自由だなんて、信用できるものか!私を奴隷にしたければするがいい!それが最初からの望みなんだろう…!」


完全にヤケになっている。

どうやら後一押しどころかやりすぎてしまったようだ。

どうして堕落したてとはいえ天使とはこう頭が固いのだろう。


「しょうがないわね… レイン?」

「はい、ゾフィ様…」

レインが完全に戦意を喪失したフロシエルの傍に歩み寄り、そっと抱きしめる。

豊かな胸の感触がドレスごしに伝わり、柔らかなぬくもりがフロシエルを包み込む。

「な、何を…っ」

「ゾフィ様の言葉を今は信じてください…。ゾフィ様はあくまでも戦う場合に備えて、デストリア達を用意しただけ…。

 それに、フロシエル様を無理やり奴隷にする事をゾフィ様は望んでいません…」

「それは…どういう…」

「ゾフィ様は…ソウルイーターを倒す事だけ、フロシエル様に協力して欲しい…こう仰っているのです…。

 私たちだけではソウルイーターを倒せるかどうかわからない…だから、フロシエル様の力が必要だと…」


レインの優しげな語りかけと抱擁はフロシエルの嘆きの心を癒していく。


ぶっちゃけ、壁が欲しいだけなんだけど、とはゾフィは心の中で思うだけにした。

そしてフロシエルの傍に歩み寄り、その瞳を覗き込んで語りかける。


「それに、貴女も元天使で今は魔族なんでしょう?使えるものは何でも使う、これくらい思ってなきゃ、この先やっていけないわよ。

 自分を奴隷製造機にしたソウルイーターが憎くないの?解毒剤を渡すなんて嘘っぱちで貴女をこき使ってさ。

 貴女の目的は何?解毒剤を手に入れることでしょう? なら、私の奴隷になりなさい。そして、自由を掴み取りなさい。」


魅了の瞳が弱りかけたフロシエルを侵食していく。

レインの抱擁と魅了の魔眼の魔力、そして淫魔の鎧の呪いもあり、フロシエルの堅い心は徐々に溶けていった。


「… わかった… でも、前だけはやめて… 子供が、できちゃうから…」


フロシエルは頬を赤く染め、恥ずかしげに顔をそむけ、身体をきゅっと自分の手で抱きしめる。

その様子を見てゾフィは眼を細めてくすりと微笑んだ。


「もちろんわかっているわ。
 
 私は口を犯してあげる。レインは後ろの穴を犯してあげなさい。」

「はい、ゾフィ様…」


そういうと、レインはドレスをスル…と脱ぎ始める。

細身ながらも豊満な肢体、そして股間に生えるペニスに、フロシエルはあまりの美しさと淫靡さに見惚れてしまう。


「あぁ…あんなに綺麗な女の子なのに…おっきぃ…」

「レインのペニスはとっても美味しいわよ?」


フロシエルの両頬に手を添えると、そのままゾフィは優しく口付けをする。

そして尻尾のような肉蛇をフロシエルの体に巻きつけ、口元を乳房にもっていくと、舌を伸ばして乳首をチロチロと舐めていく。

発情した体はキスと肉蛇の愛撫に敏感に反応し、身悶える。


「んっんむ… ふぁ…あぁ…っ!」

「私は…こちらを…」


レインはしゃがみこむと、フロシエルの尻の間に顔を入れ、下を伸ばして割れ目や尻穴を舐めていく。


「っひあぁあ!?」


秘所や尻穴を舐められたフロシエルはそれだけで軽く絶頂を迎え、軽く脱力して地面に四つんばいの格好になってしまった。


「あらら、レインも弱かったけど、堕天使もやっぱりそれと同じくらい弱いのねぇ。というか鎧のせいかしら」

「ん…ふぅ…  んむ… ふぁ… フロシエル様のここ…もう濡れて…」

「あ、あぁ…言わないで…っ」


ただの堕天使でも通常の魔族並の自尊はある。ここまで敏感なのはやはり淫魔の鎧の呪いのせいだろう。

フロシエルは天使としてのプライドで発情に耐えていたが、ゾフィ達にプライドを破壊された事で、今まで我慢していたものが一気に噴出してきたのだ。

もはや後は熱を持った身体が求めるまま快楽の波に溺れる事しかできない。

割れ目からはもう愛液が糸をたらして地面にこぼれ、尻穴もひくひくと蠢き、レインのペニスを誘っているかのようだ。

肉蛇が乳房に巻きつき、もにゅうと揉み、締め上げ、乳首に吸い付く度に、フロシエルは身体を震わせ艶声をあげる。


「ふふ…素直になってきたじゃない。頭の悪い子は嫌いだけど、素直な子は好きよ…? ン…」

「はぁあんっ ふぅ… ん、んむぅ… んぅ… ♪」


ゾフィのキスが、唇が触れ合うだけのものから、舌を絡め合う深いものへと変化する。

舌を入れられるとフロシエルは悦びの声をあげ、自分からゾフィの舌へと自分を絡めていく。

レインは尻穴に舌を這わせて丁寧に舐めていく。そして割れ目に手を添えるとくちゅ、くちゅりと音を立たせて愛撫を始める。


「んっ ふぁ…っ あはぁっ! んぁ… はぁ…っ お、お願い…、も、もう…っ」


ゾフィとレインの愛撫にフロシエルは艶声を上げ、先ほどより激しく身悶え始め、くねくねといやらしく身をよじる。

割れ目からはもうレインの手が淫らに光を反射するほど愛液に濡れ、尻穴は準備が整ったようにひくひくと開いては閉じを繰り返す。

レインもそんなフロシエルの艶姿に当てられてペニスは勃起し、身体に熱を持たせている。


「レイン、そろそろ入れてあげなさい」

「はい…。フロシエル様、入れますね…。  ん… はぁ…  あぁあ…っ!」

「あぁあ、お尻に、入って…くっるぅうう…っ!!あはぁあぁ〜〜っ!」


レインのペニスが尻穴にみちみちみちとめり込み、奥へと入り込んでいく。

狭い尻穴に締め付けられると、レインのペニスは中でさらに硬く、大きくなった。

ペニスが根本まで入ると、ゆっくりと抜き、抜ける前にまた根本までゆっくりと突きいれる。


「あぁ…くふぁ…、もっと、もっと激しくして、いいからぁ…っ!! あぁあぁっ!」

「だって?レイン。 お望みどおり、壊しちゃうくらい激しく突いてあげなさい♪」

「はい…っ んっふぁっ あっ はぁんっ! はぁっ…!い、いいです…っ フロシエル様の中、キツ、くてぇ…!」


ゆっくりだったレインの突き上げが一気に激しくなり、周囲にお尻とお腹がぶつかりあう音と、ぐちゅ、ぐちゅ、くちゅり、という肉音が響き渡る。

レインの長い髪の毛が揺れて身体にかかり、それがさらに淫靡さをかもし出していく。

ペニスは尻穴の中の壁や天井を激しく叩き、抉り、かき回していく。


「あはぁあぁっ、は、はげしっ あふっ んむっ うぅ〜… ぷあっ はぁ、ひゃぁん!」

「ん…んむ… ふふ、レインもはじけっちゃって♪ 私の中とどっちが気持ちいいのかしら?

「あぁ、そんな意地悪な事、言わないで下さい…っ くひぁっ あ、あはぁんっ!!」


激しく尻穴を突かれてフロシエルの身体が激しく前後に動き、乳房もゆっさゆっさとゆれる。

堕天使を犯す艶やかな黒髪の美少女と、その唇と胸を貪る下着姿の少女。

傍目から見ればこの光景を見て欲情しない者は少ないだろう。

当然それはオーク達も同様であった。


「オ、オレタチハ、ドレイハ、ドウナルンダッ」

「オ、オレタチニモ、ドレイ、ヤラセロ」


オーク達がゾフィ達の傍ににじり寄る。ペニスは完全に勃起し、臭い息を荒くしている。


「そうねぇ…。フロシエル、あなた、輪姦されるのは好き?」

「ふぁ…あぁ…  そ、それは… あはぁっ!!」


輪姦、という言葉を聞いた瞬間、フロシエルの背筋がそりかえし、びくびくっと身体を振るわせた。


「どうやら好きみたいね?ふふ、それじゃあソウルイーターを倒したら、じっくりと味あわせてあげるわ」

「ゲヒヒヒ、ソリャタノシミだ!!」

「ソウルイーター、コロス、コロシテ、オカス!ゲヒヒヒ!!!」

「あはぁぁー〜〜っ!そ、そんな…私、わた…しは…あ、ああぁ、そんな…想像しただけで…、い、イク、いく、あ、あぁあーーーっ!!」

「ひあぁっ、で、出ますっ、フロシエル様、私も、出ます、あ、あぁ、ああぁーーーっ!!」


オークの下品で粗悪な笑い声を聞いてゾフィは今ここで消し炭にしてやろうかと思ったが、ソウルイーターと戦う前に手ごまを失うのは嫌なので我慢した。

フロシエルはそのオークの声に逆に興奮し、輪姦される事を想像しただけで絶頂を迎えた。

そこにレインのペニスがビクビクっと震えると、びゅるぅう!!びゅるーー!!びゅるぅうう!!と精液が大量に射精され、腸内を染め上げていく。


「さぁ、頃合ね。もっと絶頂の向こう側へいっちゃいなさい♪」


ゾフィは耳元に息を吹き替えささやくと、肉蛇を股間にもっていき、舌を一気に膣内へと突きいれかきまわした。


「あ、あつぅ、あっ!ひぁああ!!?オ、オマンコ、オマンコも!?
 
 そ、そんな、お、堕ちる、また、堕ちっ…ア、あぁぁあぁああああぁーーー〜〜〜〜っ!!」


ゾフィの攻めがトドメとなって、フロシエルの心は完全にゾフィの奴隷のソレへと堕ちていった…。



その後、ゾフィはレインとオークにフロシエルを輪姦奉仕させ、ゾフィもフロシエルに自身を奉仕させた。

これでデストリアを呼び出した魔力は回復し、万全の体勢でソウルイーターの元へ乗り込むことができる。


「さぁ、行くわよ。デストリアに乗りなさい」


フロシエルをデストリアに騎乗させ、自身もレインと共にもう一頭のデストリアに騎乗する。

デストリアには人馬一体という特殊能力があり、騎乗者が受けたダメージをデストリアのダメージに移して分散させる事ができる。

淫魔の鎧で戦力にはならずとも、これで壁としては十分に使えるだろう。

そしてオマケにオーク3匹。とりあえず今集められるだけの手ごまは集めた。

あとは乗り込むだけである。

ゾフィ達を乗せたデストリアは魔都へと向かい、ソウルイーターの店の前へと駆け走る。

オークはデストリアの尻尾にぶらさがって身体を浮かして悲鳴をあげていた。

魔都では駆け走るゾフィ達を何事かと魔族たちが見るが、すぐによくある事として忘れられた。

そして目的地であるソウルイーターの奴隷商店の前へとたどり着いた。

商店の前では警備兵のオーク小隊が武器を構えて並んでいる。

フロシエルが警戒して剣を抜こうとするが、それをゾフィが手で制する。


「出迎えご苦労様。約束どおり商品をつれてきたわよ。さぁ、ソウルイーターの元へ案内なさい」


いまさら何をぬけぬけと、とフロシエルは思ったが、なんとオーク小隊は武器の構えを解き、ゾフィにひざまづいた。


「オマチシテオリマシタ、ゾフィサマ。ソウルイーターサマハナカでオマチデス」

「ゾフィ、いったいこれは…っ」


オーク達にはゾフィを発見次第、捕縛しろとの命令が出ていたはずだ。

フロシエルが当然の疑問をゾフィにぶつける。


「部下の扱い方を知らないソウル狂いのタコ上司は不満を持ってる部下に裏切られるのは当然という事よ」


フロシエルにゾフィがにやりと眼を細めて微笑みかける。

既にオーク小隊はゾフィの奴隷として忠誠を誓う事になっていたのだ。

おそらくは先ほどの口八丁と魅了でたらしこんだのだろうが、その根回しの早さにフロシエルは舌を巻いた。

フロシエルの記憶では、もうソウルイーターの配下はいない。単身のみだ。

ゾフィもその事を知っている。オーク達からソウルイーターの情報全てを入手していたのだ。

ゾフィの口元から舌が覗いて、ぺろりと舌なめずりを打つ。


「さぁ、自由を掴み取るわよ!ソウルイーターがためこんだソウルはオークどもにくれてやるわ!行くわよ!!」

「あ、う、うんっ!」

「オオオオオオオオオ!!!」


ゾフィが叫ぶや否やオーク達も声をあげ、全員が商店の中へと突っ込んでいく。


「な、なんだ、何事だ!?なぜお前たちがそっちにいるのだ!契約はどうした!」



商店では、ソウルの首飾りをかけた、人の頭がタコになったような姿を持つモンスター、

ソウルイーターが慌てふためいていた。

ゾフィはその前に立ち、ちっちっち、と指を揺らすソフィの顔がにんまりと歪んだ微笑を浮かべる。


「アナタって邪魔なのよねぇ… だ・か・ら」


ゾフィは一呼吸置いて宣戦布告の言葉を放つ。


「殺してあげる♪」


ゾッとするような声にソウルイーターは震え上がった。

しかしソウルイーターはモンスターの中では中位に位置する存在。

相手は最下位の魔人クラスで取り巻きも有象無象だ。

フロシエルにいたっては呪いで戦力にもならないだろう。


「ふざけおって、魔人如きがこの私を舐め腐るとは!身の程を思い知らせてやるわ!!」


ソウルイーターの身体が青白く不気味に光りだす。

霊魂吸収。ソウルイーターの恐るべき特殊能力だ。

この攻撃を食らえば、対象はその生命力をソウルイーターに吸い取られるだけでなく、装備品もソウルに変換されてしまう。

また、ソウルイーターに色事や誘惑は一切通じない上に、防御能力も高い。

ゾフィから見ても、これだけの手勢を集めて勝てるかどうかは7分といったところだ。

本当は9分程欲しかったが仕方ない。それに少々の危険がなければつまらない。


「フロシエル、ダークブレードを…って」


「あはぁあ…!」


ゾフィがフロシエルを見ると、フロシエルは淫魔の呪いによって自慰をはじめていた。

もとから戦力として期待はしていなかったので想定内なのだが、心の中で、この役立たず、と叫ばずにはいられなかった。

そしてソウルイーターの手から生命を吸収する不気味な波動がゾフィに襲い掛かる。

しかし…。


「吼える割には怯えてるいるわよ?」


波動はゾフィの防御結界に弾かれ霧散する。


「ぬぅう!ならば我が魔導の力食らうがいい!!」

「あはははは!魔導に長けているとはよく聞くけれど、耐えるほうはどうかしらねぇ!」


ソウルイーターが呪文の詠唱に入る。

しかし既に一手を消費したソウルイーターの呪文が完成するのはゾフィ達の攻撃の後になるのは確実だった。

ゾフィはイビルブラストの呪文を詠唱し、ソウルイーターに向かって発動する。


「むぅん!!」


しかしそれをソウルイーターは同じく防御結界を展開し防御する。

イビルブラストは防御結界に弾かれ、空中で爆散する そのはずだった。

しかし暗黒球はそのまま防御結界を突き破り、ソウルイーターの体に直撃する。

ソウルイーターは理解できなかったが、ゾフィの周囲に浮かぶ闇の瘴気を見て理解する。


「ダークパワーか!」

「ご名答。魔族とモンスターの格の違いの証明ってヤツね」


ダークパワー。魔族が相手を打ち倒した、または奴隷化した際に集まる暗黒の力。

その力は魔界の概念を覆し、起こった結果を別の結果に上書きするという奇跡の力を秘めている。

ゾフィはオークやフロシエルを奴隷化した際にこのダークパワーを収束していたのだ。


「さぁ、やっておしまいなさい!」

「オオオオオオオ!!!」

「ブヒィイイン!!」


ソウルイーターにオーク達が、そしてデストリアが襲い掛かる。

しかしオークやデストリアの攻撃如き、ソウルイーターの防御結界の前ではかすりもしない。

実際にオーク小隊の攻撃は弾かれ、5匹ほどのオークが壁に打ちつけられた。

デストリアの噴出す瘴気も結界に阻まれる。

ソウルイーターの呪文が完成に近づく。


「貴様等まとめて灰と化してやるわ!」


ヘルファイア。地獄の火炎を周囲一帯の対象に見舞う大技である。

これが発動すればゾフィ達は一斉に多大なダメージを受けるだろう。

その後は確固撃破していけばなんら問題はない。

ソウルイーターがほくそえんだその時だった。

突如、周囲が暗黒の瘴気に包まれ、ソウルイーターの体を蝕んでいく。


「な、なんだと!?馬鹿な、何が起こったというのだ!?」


防御結界は完璧だったはずだ。ゾフィもダークパワーを発動していない。

この瘴気はデストリアのブレスだという事はわかる、だがこの内側から蝕む瘴気の強度は通常より遥かに強い。

それは魔界の理の一つ。たとえどんな弱者であっても大魔王を傷つける事の出来る、気まぐれな運命の力。

その運命の力が、デストリアの一匹のブレス攻撃に加えられたという事を、ソウルイーターは理解できなかった。


「ば、馬鹿な、この私が、デストリア如きに、魔人如きに…、ぐあぁおあぁああああ!!!!」


ソウルイーターの体が黒ずんでゆき、断末魔と共にボロボロと崩れ去っていく。

後にはただの塵が残るのみであった。


「あら、あっけない」


とは言うものの、やはり危なかった。今回は文字通り、運がよかった、それだけだ。

ヘルファイアが完成していれば、どうなったかわかったものではない。

さらにダメージを与えたとしても霊魂吸収で生命を奪われればゾフィといえど魔力が先に枯渇し手も足もでなかっただろう。

心の中で冷や汗を流しつつも、ゾフィは涼しげに口を開いた。


「さぁ、この店の主は死んだわ!つまりこの店のものは全て落し物!拾ったヤツのものよ!!」


鞭を掲げて公然と家捜し宣言を行う。


「ゾフィ様…それは…」


レインは一斉に家捜しを開始するゾフィやオーク達の姿を見て、ただただ苦笑するのみである。

フロシエルはというと自慰で火がついたのか、艶声をあげながら指先で膣穴と尻穴をいじくっていた。



結果、ソウルイーターの店から強奪した戦利品は以下の通りとなった。


ソウルイーターが溜め込んでいた31ソウル。商人としてはかなり少ない額だ。おそらく商売が上手くいっていなかったのだろう。

暗黒の大剣。闇の力を秘めた強大な力を持つ両手剣である。呪文をメインに扱うゾフィにとって無用の長物である。

抗魔の指輪。強力な防御結界を発動できる魔法の指輪である。おそらく戦利品で最も価値のあるものだろう。自前の魔力とこの指輪で防げない呪文はそうそうないはずだ。

ダムンドの奴隷3人。ソウルイーターの商品だろう。オーク達の褒美にちょうどいい。

そして、フロシエルの求める強制妊娠薬の解毒剤である。


「はい、お望みのものはこれでしょ?あと、約束どおりもう貴女は自由よ。好きになさい」

「えっ!?」


発情から我に返ったフロシエルは放り投げられた解毒剤を慌てて受け止めると、ゾフィの言葉に衝撃をうけた。


「何を驚いているの?」

「いや、だって…。ゾフィは…私をずっと奴隷にするつもりだったんじゃ…」

「まだ言っているの?

 言ったでしょう?ソウルイーターを倒すまでの協力関係だって」

「で、でも、魔族は自分より弱い相手の約束なんか反故にして当然って…っ」

「あぁそれ?当然よ。そして約束を反故するかどうかは強い者が決める事。
 
 私はこの件では反故しない。それだけよ。
 
 さ、わかったらさっさと好きな所に飛んでいきなさい」

「………」

「何よ…って、なんで泣いてるのよ!?」


いつの間にかフロシエルの頬を熱い雫が伝っていた。


「う、うぅう… ありがとお、ありおがとう、ゾフィ…っ!私、あの時、何も出来なかったのに…、こんな、こんな…っ」

「ちょ、ちょっと、何で泣くのよ。あぁ、もう泣き止みなさいってば!」

「フロシエル様、これを…」


ボロボロと泣き始めるフロシエルに今度はゾフィが仰天した。

おたおたするゾフィにかわって、レインがフロシエルにハンカチを手渡す。


「う、うぅ、ありがとぉ、レイン…っ」


ハンカチで涙を拭うフロシエルを、レインは優しく抱擁する。

腕を組んでそっぽを向くゾフィに、レインはにこりと眼を細めて微笑みかける。


「まったく…これだから天使は苦手なのよね」

「ところで…フロシエル様は、どこか行くあてがあるのですか…?」

「ぐず…  ぇ…? そ、それは…」


レインの言葉で落ち着いてきたフロシエルはだんだんと今の自分の現状を把握しだした。

そう、自分は堕天使。元天使の自分はこの魔界では嫌われ者だ。そして天使からも魔族以上に敵対視されている。

自由を手に入れたが、それは絶対の孤独を意味する。それを理解した時、フロシエルはがくがくと震えだし、今度は違う意味で泣きじゃくり始めた。


「い、いくあてなんて…、何処にも…。天界にも戻れない…っ 私には、何処にもいくあてなんて…」

「あぁもう鬱陶しいわね!だから泣き止みなさいって言ってるでしょう!?

 ここは魔界なのよ、自分の力でなんとかするのがここの唯一の法なのよ!」

「ゾフィ様、それは私も同じ事ですよね?」

「…え?」


レインがフロシエルを抱きしめながら、ゾフィを見つめる。


「あ、貴女はいいのよ、レインは私の玩具なんだから!」

「では…、私は下級奴隷の身ではありますが、このフロシエル様を私の玩具にする事をお許しくださいますか?」

『え゛っ!?』


レインの言葉にゾフィとフロシエルがさらに仰天する。濁点をつけたのはもちろんゾフィだ。


「フロシエル様は、戦闘には…失礼ですが向いてるとは思いません。でも…その翼の行動力は十分にゾフィ様のお役に立つものだと思います。

 また、戦闘に向かないのはこの呪われた鎧のせいですから…その解呪を行えば…立派に戦士として活躍できるものと思います。

 そうすれば、調教や魔法が通じない相手…たとえば、闇に対して耐性を持つ相手に対して、フロシエル様はなくてはならない存在になるかと…」

「れ、レイン、貴女…」


ただ高い癒しの能力を持つ絶世の美少女、とだけ思っていたが、実際はそれ以上に頭が回るようだ。

人間界からやってきた、とは魔都に戻ってきた時に聞いていたので、ちょっと魔界について教えただけなのだが。

フロシエルもいつの間にかレインを見つめている。自分を評価してくれた存在に始めて出あった様で感激しているらしい。


「どうでしょう…ゾフィ様。フロシエル様を私にお与えになってくださいませんか…?」

「あぁ〜〜…もうわかったわよ。レインの好きにしなさい」

「!!」

「有難うございます、ゾフィ様…。  これから、よろしくお願いいたしますね、フロシエル様」

「あ、は、はいっ よろしくお願いします、レイン様!!」

「様、だなんて…。レインと呼び捨てになさってください。私はただの、メイドですから…」


レインの全てを癒すかのような微笑みにゾフィもフロシエルも反論する気もなくなってしまった。

いや、レインのいう事は至極もっともで、反論する余地もなかったのだが。

フロシエルにいたっては、魔族としての階級は自分が上にも関わらずレインに様付けを行っていた。


この子…上手くすれば化けるかも…。


ゾフィはレインをただの玩具という認識から改める必要があると確信した。

そういえば、レインは人間界にいる時は魔導書も扱う大図書館にいたらしい。

ならば、魔導書を持たせれば後々役に立つかもしれない。

それに…。


「上位魔族を下級魔族の奴隷にするのも面白そうね」


次の目的が決まった事で、ゾフィはにんまりと微笑を浮かべた。




続く。
*************************************************
戻る