世界の歴史と現在の状況

1,栄光の楽園 2,失楽園 3,退廃の新世界 4,魔王の顕現 5,暗黒時代 6,そして現在

 

 1,栄光の楽園

かつて人類は、神が創り、天使が管理する楽園に住んでいた。

神の御言葉に従い、知恵の天使ラジエルの助言をよく聞く事で、
人類は間違いを侵す事なく従順に、無垢なまま世代を重ねていた。

水は溢れ、食べ物は尽きず、人種差別も身分差別も存在しない。
貧困と病にあえぎ苦しみ苦痛の叫びを上げる事もない。
危険な存在は、鉄の守護者ケルプによって打ち倒される。

楽園に住まう全ての者が、平等に、そして幸福に暮らせる事ができた。
 

 

 2,失楽園

しかし、至福に包まれた楽園は、
人類の幸福を妬んだ天使、悪魔の囁きによって崩壊の時を迎える。

堕落した天使の囁きに惑わされた人類は、
神の言いつけを無視し、決して破ってはならぬ禁忌を侵した。

その禁忌によって、楽園の大地は、大干魃や大地震、
大津波、火山の噴火などの大災害に見舞われ、失われた。

楽園を崩壊させ、人類を堕落させた堕天使達は、
首領のアザゼルもろとも捕らえられ、決して抜け出せぬ地獄の底へと投げ込まれた。

もはや、神の叡智においても、失われた楽園を取り戻す術は既になく、
正しき心を持つ人類は、天使と共に方舟に乗り、新天地を求めて旅だった。

方舟に乗る事を許されず、失楽園の墓標に取り残された罪人達は、
未来への絶望に打ちひしがれ、尚も神に救いを求めたが、
自分たちは神に捨てられたのだと認識するまでには、長い時間はかからなかった。
 

 

 3,退廃の新世界

やがて罪人達は、そうして罪人となった様に、
大いなる神を「我らを見捨てた裏切りの神」「我らを騙した偽りの神」として貶めはじめる。
新しき真なる神として「デミウルゴス」を自らの手で世界の唯一神として創造し、
自慰なる夢想に浸りながら崇め奉った。

人々は残された荒廃と退廃の世界を、
楽園であった時代と変わらぬ「エデン」と呼び、
過去の栄光が埋まった崩壊した大地の上で、
再び原始的な文明から歴史をやり直し、中世の時代まで持ち直した。

そして、エデンにおいて最も巨大な大陸ユーラシアの西方、
古くはヨーロッパと呼ばれていた区域は、デミウルゴスを主神とする「カヴェル教」を国教とし、
教皇カヴェル13世を国主とする「カヴェル教国」が絶大な権力を握り、その圧倒的武力と権力、
そして信仰心をもって、ヨーロッパ全域を、神の統治の名の下、絶対的に支配していた。

教団はヨーロッパを「プルガトリウム」と改名し、
我らが煉獄と呼ぶこの大地こそ、神聖な魂が集う、真なる楽園と定義した。
そして真なる神デミウルゴスの代行者たる教皇こそ、
大いなる世界の守護天使であり、エデンの正当なる支配者と謳った。

しかし、巨大すぎる教国は、過去の帝国が例外なくそうであったように腐敗の道を突き進み、
教皇を始めとする腐敗しきった施政者達は、ありとあらゆる陰湿的、かつ絶望的な手段を以て、
贅沢の極みと酒池肉林を堪能し、その生贄となった国民は貧困と困窮に突き落とされ、
絶望に打ちひしがれた。

腐敗したカヴェル教を否定した勇気ある者達もいたが、
尽くが「異端者」として社会的生命を抹殺された上で断罪された。
相次ぐ粛清に不満を募らせる国民に対し、教皇は国民を「罪人」として睥睨し、
己の搾取と暴虐を、厚顔無恥にも正当化した。

「私が、罪人たちを罪人たらしめる要素をこの身に引き受ける事で、
 愚かで救いようのない罪人でも罪を赦され、天国へ行けるのだ。」


その詭弁を裁ける者はおらず、奴隷の如き国民は絶望から這い上がる事も諦め、
やがて、真なる罪人と転げ落ちていった。
 

 

 4,魔王の顕現

この世の正義が腐敗し、自らを殺しせしめる絶望へと変わった事を理解した者達は、
希望を捨て、楽観視をやめ、絶望と諦観にその思考と身体を委ね、
救いなき心を満たすために甘美な毒に手を伸ばした。

悪魔信仰。背徳極まる快楽の宴。酒と草の狂躁。

神に絶望した者達が救いを求めたのは、神の敵対者たる堕天使、
地獄に堕とされし大罪の魔王達であった。
快楽を貪る事でこの世の地獄から逃避していた矮小なる者達は、
「サバト」に集いソドムとゴモラさながらの背徳的行為に耽った。

サバトに集いし罪人たちは、淫欲と知識を司る魔王「アスモデウス」を崇め祭り、
何時までも快楽に浸るための庇護を求めた。
デミウルゴスが夢想で生み出された創造神であるように、
魔王たちもまた夢想により生み出された都合のいい存在のはずだった。

だが、旧ヨーロッパ全域が絶望と救いの声で満ちあふれた時、それは現れた。

地獄に封じられし淫欲の魔王アスモデウスが現世に顕現し、
己の信者たちに自らの知識の結晶たる大いなる加護、「魔術」を伝授したのである。

魔術は人の力ではとうてい不可能な現象を現実にする奇跡の力を持ち、
それを操る罪人は「魔女」と呼ばれ、魔王の下僕たる「黒山羊」がそれを導いた。
 

 

 5,暗黒時代

アスモデウスから魔術を伝授された魔女達は、
魔王の信者として唯一にして絶対の、1つの戒律を受ける。

「欲するものを楽園に求めよ。我はその罪を赦そう。」

それは、魔女達の欲望の咎を免罪し、
世界の理不尽にはじめて対抗する事を許された、
絶望を打ち払う甘美な戒律であった。

楽園と何か?夢見る未来の理想郷か?
それとも過去に実在したとされる楽園か?
あるいはこの逃避のための背徳の宴?

魔女達は楽園について多くを議論し、魔王に解答を乞うたが、
アスモデウスは「楽園である」とだけ、これに返すのみであった。

やがて魔女達は、楽園の概念を共有する者どうしでサバトに集い、
概念の違いによってサバトは千差万別の派閥を生み出すに至った。

このサバトの方向性の拡散と収束は、絶望の奴隷達だけでなく、
高位階級の知識人やオカルティスト、野心を見出した者も誘い込み、
当初はただの現実逃避でしかなかったサバトの構成員は急速に拡大していった。
 
それぞれの派閥に集った魔女達は、
自らが追い求める楽園へ到達する事を至上目的として活動を始める。

それらサバトの活動は、人間の原罪を免罪する事を大義名分として
人々を統治していたカヴェル教国にとって、非常に邪魔な存在であり、
魔女やその親派を異端者として弾圧し、捕らえられた者達は、多くが火刑に処された。

魔女達は魔術を駆使してこれら教団の弾圧に立ち向かい、
当初は教団側が魔術の餌食となって敗退する他なかったが、
魔女狩りを行う異端査問会の聖職者たちは、魔女が記した魔道書や、
辛うじて捕らえた魔女を拷問して聞き出した呪文を入手し、
それを弾圧に利用する事で超常なる力に対抗した。

やがてサバトと教団の全面的な対立はプルガトリウム全域に及び、
魔女達と教国正規軍による衝突が頻発し、プルガトリウムは由来とは裏腹に、
背徳、荒廃が満ちた奈落、いわゆる地獄の様相となっていった。

この暗黒時代は最終的に圧倒的武力を持つカヴェル教団が勝利し、
魔女達は再び闇の世界へと潜り、密かに活動する事となる。
 

 

 6,そして現在

魔女達が教団に敗北し、カヴェル教国の支配は再び磐石なものとなり、
搾取の時代は未だ続いていものの、
あの教国を傾かせた力が存在するという事実は
多くの国民にとって衝撃となり、教国は魔女達にひとまず勝利したものの、
その事後処理に集中せざるを得なかった。

教国はこれまで以上に徹底的にサバトの摘発に力を注ぎ、魔女達を徹底的に弾圧した。
その結果、魔女達はサバトを縮小化して秘密裏に集い、
魔術の継承と維持のために社会に深く浸透する必要性が迫られた。

道徳教育によって、プルガトリウムの社会では淫らな背徳行為は重い悪徳とされ、
強姦罪や姦通罪は死刑と同等の重罪と扱われた。

しかし、聖職者の腐敗は相変わらず健在であり、
裏社会では上位階級が金と権力を以て相変わらずの生活を送っており、
到底、おせじにも退廃的行為が取り締まられているとは言えず、
それらの堕落者に取り入る事で生き長らえている魔女も多い。

そして、その腐敗こそが高位階級の内部に魔王の教団を構築し、
皮肉にも教国を以前より強く蝕んでいくという状況となっている。

現在の魔女達は、立場を秘めて裏で賄賂や肉体を餌に
自らの立場を他者に保証させ、秘密裏に楽園を目指す事が常道となり、
アスモデウスの戒律と自らが属する派閥の戒律に従い、
社会の闇と欲望を煽り、飲み込む事で狡猾に生き抜いている。
 

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